夕暮れ時にアポロを連れて散歩をしていると、ざくろの実がなっているのを見つけた。
ざくろといえば祖母との思い出がある。
大学を卒業してすぐ教育者として働いていた私は、理想と違う現実を突きつけられ、日々もがきながら必死で毎日をやり過ごしていた。
実家に帰るたびに疲れた顔をしている私を案じた祖母が、一人暮らしをする私の家に1ヶ月間きてくれることになった。突然、祖母との2人暮らしが始まったのだ。
とはいえ私は、幼い頃からおばあちゃん子だったので、むしろ大歓迎だった。仕事から帰った私を待っていたのは、祖母が作る素朴な料理とざくろジュース。どちらも口にしただけで泣きたくなるほど安心する味だった。とくにざくろジュースは、1日の忙しさを吹き飛ばしてくれるような甘酸っぱさだった。そのジュースを飲みながら祖母といろんな話をした。というより、祖母はいつもニコニコして私の話を聞いてくれ、何を話しても私の味方だった。
「おばあちゃんは、あこちゃんの話をずっと聞いていたいわあ」とニコニコしながらよく言ってくれていた祖母。その祖母も今ではすっかり私のことがわからなくなり、施設に入っている。
でも私は折りに触れて祖母のことを思い出す。優しい祖母の笑顔や、あったかい手や、小さくて丸い背中。そしてこの季節になるとよく作ってくれていたざくろジュース。
散歩の途中で見つけたざくろを見ながら思った。
どうしてあのジュースの作り方を教わっておかなかったんだろう、と。魚の裁き方も、編み物もなんでも上手だった祖母。その存在が当たり前すぎた。まさか「うちのおばあちゃん」に限って、私のことがわからなくなるなんて思いもしなかった。
今年は私がざくろジュースを作ってみようかな。
それを祖母に飲んでもらったら私のことを思い出してくれないかな。
大好きなおばあちゃん。
おばあちゃんのひ孫は、もうすぐ2歳になるんだよ。
今日の私が暮らしの中で愛しいと感じたもの。
それは散歩の途中で見かけたざくろの実。
祖母の優しさを思い出し、甘酸っぱい気持ちを抱きしめた夕暮れ時だった。