なかなか手強い相手だ。一筋縄ではいかない。これまでもあの手この手で挑んだものの、私はまだ一度も勝利を手にしていない。
絆創膏を貼ったり、指人形をかぶせてみたり、考えられる手は尽くしてきた。これ以上一体どうしたらいいのだ…
こっちゅんが止めてくれないのだ、指しゃぶりを。
3歳児健診で「心配なことはありませんか?」と聞かれた私は、かねてから気になっていたこっちゅんの指しゃぶりについて質問した。
「何歳くらいまでに止めさせればいいんでしょう…」
「そうですねえ…もう3歳になったので、そろそろかと。歯並びにも影響しますし」
やっぱりそうだよね、と心の中で頷きながら、帰路、こっちゅんと指しゃぶりについて話をした。
「こっちゅん、指をしゃぶってると、こっちゅんの歯がどんどん前に出てきちゃうんだって。こっちゅんはもう3歳のおねえさんだし、指しゃぶり止めてみない?」
「ううん。止めない」
カーンとゴングが鳴る音がした。終了である。
こっちゅんはそれ以上何も語ることは無いと言わんばかりに私の手を振りほどき、公園へと駆け出していった。
一体どうしたものか。ネットで「指しゃぶり 止めさせる 方法」と検索すると圧倒的に多いのが指に絆創膏を貼るという方法だ。確かに以前絆創膏を貼った時、その上から指しゃぶりをした結果、あまりに不味く、途端に口から指を出したということがあった。これはいけるのではないか!?そう思ったのもつかの間、こっちゅんはその経験から絆創膏自体を嫌い、貼らせてくれなくなった。そして遂にこっちゅんの親指には厳然とタコが出現してしまったのだ。
しかしどう考えても、手軽にできる方法といえばやはり絆創膏作戦しかない。そのためには、こっちゅんに絆創膏を好きになってもらうことから始めなければならないようだ。
「こっちゅん、こっちゅんはさ絆創膏がキライでしょ。でもね、怪我した時にいたいのからこっちゅんを守ってくれるのが絆創膏なの。アンパンマンと同じヒーローなんだよ」
アンパンマンにとっては絆創膏と一緒だなんて寝耳に水かもしれないが、とりあえずこっちゅんが知る数少ないヒーローと同列にするしかない。
「だからね、こっちゅんが親指に絆創膏を貼ったら、いつでもアンパンマンと一緒ってことだよ」
もう支離滅裂である。でももう後には引き下がれない。その時私はふと思い出した。以前にアンパンマン柄の絆創膏を試したことを。しかしその時ですら門前払いを食らっていたではないか。これじゃあ「親指に絆創膏=アンパンマンといつも一緒」作戦が上手くいくはずがない。
無言を貫くこっちゅんに白旗を上げながら、私は率直に聞いてみた。
「こっちゅん、どうしたら絆創膏を好きになってくれるの?」
すると少しの沈黙の後、こっちゅんが答えた。
「くまちゃんかいてくれたらいいよ」
「!!!!」
盲点だった。こっちゅんはIKEAで買ったくまちゃんのぬいぐるみがお気に入りで、どこに行くにも一緒だ。最近知ったアンパンマンより、旧知の仲であるくまちゃんと一緒にいたかったのだ!
「よーし、わかった!かいてあげようね」
その気持ちが変わらないうちに、私は絆創膏にかわいいくまちゃんの絵を描き、こっちゅんの指に貼った。
するとその瞬間、こっちゅんが言ったのだ。
「まま、こっちゅんずっとくまちゃんと一緒だね!」
そして最愛のくまちゃんを口に入れることはできないと思ったのか、こっちゅんの指しゃぶりは嘘のようにピタッと止まった。
今ではすっかり絆創膏が好きになったこっちゅん。怪我をして無くとも貼りたがるのには閉口するが、とりあえずは良しとしよう。今ではくまちゃんだけでなくいろいろなものが描かれるようになった絆創膏。にんじん嫌いのこっちゅんに何とか食べてもらおうと写真のように描いてみたが、それはまた別の話らしい…